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企業経営のための悪質クレーム対策

はじめに。

 昨今では、消費者保護が興隆しています。しかし、消費者保護が行き過ぎると、今度は、それを奇貨として、企業を恐喝する者が出てきます。同じようなもので、昔からあるもので、「総会屋」があります。総会屋とは典型的には株主総会等で企業を脅迫等し、脅迫等しない代わりに金銭的利益を得るようなものです。この総会屋については、あまりに目に余ったので、現在では色々と厳しく規制されています。また、似たようなもので「当たり屋」と言われる交通事故の被害者の詐称行為により利益を得ることを業とする者もいます。さらに最近では、電車の中の「チカン行為」の被害者を詐称して、示談金で利益を得るような者まで出ており、もはや看過しがたい状況です。このような状況では、正当な被害者までが、直ちには信用されなくなってしまいまいます。

以下では、「被害者」を詐称し、企業等に違法な要求をする場合に、いかなる法的責任が、当該詐称行為者に生じるか、を示しておきます。まずは刑事手続きからです。


1. 恐喝罪(刑法249条1項)
恐喝罪は未遂を処罰します(法250条)ので、恐喝行為だけで処罰に値します。恐喝罪の実行行為性は、「恐喝」、すなわち、「脅迫または暴行によって人を畏怖させること」です。そして「脅迫」とは、一般に人を畏怖させるに足りる害悪の告知をいいます。これは強盗罪におけるほどの強度のものではなく、たとえば、判例上、「数人が集まって絶交する旨の通告をすること」すら恐喝行為に当たります(大判大元・11・19等)。
 そして、かかる「害悪」の内容を明示する必要はありません。黙示でもよいわけです。また、明示的に金銭を要求する必要もありません。また、害悪の内容はそれ自体、独立して相手方を畏怖させるものでなくとも、他の事情と相俟って畏怖させるものであれば足ります。要するに、恐喝罪は案外、容易に成立するものです。


2. 脅迫罪(法222条1項)
恐喝罪との主な違いは財産犯か否かであると考えておけばよいでしょう。要するに金銭等の財産上の利益を目的としないと認定されても、脅迫罪で立件されうるのです。


3. 虚偽告訴罪(法172条)
かつて刑法改正前は「誣告罪」と表現されていた犯罪です。法文は「人に刑事又は懲戒の処分を受けさせる目的で、虚偽の告訴、告発、その他の申告をした者は、3月以上10年以下の懲役に処する。」です。この「懲戒」には、弁護士等への懲戒も含まれます(「大コンメンタール刑法」172条注釈。)。最高刑が意外に重いのは、この犯罪が、公益上、重大な支障を生じるからです。たとえば、虚偽の告訴で、いかに多くの司法関係者が動くか、その国家的損失も保護法益です。


4. 信用毀損及び業務妨害罪(法233条)
「虚偽の風説を流布し、又は偽計を用いて、人の信用を毀損し、又はその業務を妨害した者」につき、成立します。偽計の部分を234条の威力業務妨害罪と対比して、「偽計業務妨害罪」と言います。


他にも色々ありますが、刑事レベルでは概ね、このような法的責任が生じます。
次に民事レベルでは以下です。


1. 不法行為責任(民709条以下)
悪質なクレームを受けた企業は、その損害の賠償を請求できます。これは財産的損害賠償請求のみならず、担当者の精神的損害賠償請求(=いわゆる慰謝料請求)までが可能です。企業活動を妨げた損害は一般に巨額になります。


2. 契約責任(民415条等)
債務不履行と言ったほうが馴染みがあろうかと思いますが、不法行為責任が契約関係にない者同士を規律する法的責任なのに対し、債務不履行責任は契約関係にある当事者を規律します。ただ、契約関係にある当事者の場合には、不法行為責任までもが重畳します(請求権競合論)。


以上のような法的責任が生じますから、「詐称被害者」の被害にあった企業としては、上記を前提に法的措置をとることになります。
悪質なクレームには一定の特徴があります。「マスコミ(ないし関係機関)が知ったら困るでしょう」とか、「誠意が足りない」とか暗に金銭での解決をにおわせ、企業側が処理済みだと考えた頃を見計らって、またもや不当な主張を繰り返す、とか、暴力団との関わりをほのめかす、等々です。
その他、クレーム処理は大学で教えてもいいくらい奥の深いものですが、ここでは法的責任に絞って、概説まで示しておきます。消費者保護を重視した結果、企業活動が萎縮しては本末転倒であり、皮肉なことです。


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